(English) BOOKS: INTERVIEW WITH LYNNE KUTSUKAKE, AUTHOR OF ‘THE TRANSLATION OF LOVE’

JSS理事 チバ ミシェル

タイトル The Translation of Love (2016)

著者   リン・クツカケ

ジャンル 歴史フィクション

2017 Kobo Emerging Writer Prize 受賞

2016 Canada Council Canada-Japan Literary Awards 受賞

昨年(2016年)の夏、日系文化会館(JCCC)のイベントでボランティアをしていた際、何か面白い本はないかという話題になったのですが、友人の一人が薦めてくれたのが、リン・クツカケのThe Translation of Loveでした。実は、クツカケさんはその友人のいとこだったのです。クツカケさんは、私もそうなのですが、第二次世界大戦中に抑留させられていた日系カナダ人両親のもとで、トロントに生まれ育ちました。1976年には英語教師として東京に渡り、日本文学を学ぶことになります。その後彼女は、トロント大学で日本関連の書籍を主に扱う司書としてキャリアの大半を過ごし、2007年に退職しました。クツカケさんのツイッターのアカウントは、@LynneKutsukakeです。

The Translation of Loveは戦後の日本が舞台の心揺さぶられる物語です。日本に強制送還されたばかりの13歳の日系カナダ人少女(アヤ・シマムラ)には、強気な性格の同級生(フミ・タナカ)がいますが、その姉のスミコが行方不明になってしまい、一緒になって捜索を始めます。美しい姉に何が起きたのか、フミには思い当たる節はないのですが、銀座の怪しげな裏通りに消えてしまったのではないかという気がしてならないのです。アヤとフミの関係にも変化が生じ、スミコの捜索が進展していく中で、深く関わり合う重要な人物が多数登場します。

CBCテレビのインタビューで、クツカケさんは、自身初となる本作品のきっかけについて、Dear General MacArthur (2001)という本に触発されたと言っています(翻訳:袖井林二郎『拝啓マッカーサー元帥様―占領下の日本人の手紙』)。そこには、占領期の日本市民がマッカーサー元帥に宛てた手紙について書かれているそうです。主人公を12歳の少女にしようとした理由についてクツカケさんは、「主人公は12歳でなくてはならないと思いました。「日本人は12歳の国民だ」という、良くも悪くも有名な言葉をマッカーサーは残しているからです。」

終戦時に、日系カナダ人たちが西海岸の住まいに戻ることが禁じられたのはあまり知られていません。彼らはロッキー山脈東部への定住、もしくは本国送還という選択を強いられたのです。この送還政策によって、日本に強制送還された日系カナダ人は4000人にのぼると言われています。クツカケさんの母方の祖父母も強制送還されましたが、それについてはおろか、抑留についてすらほとんど家族の中で話題にする人はいなかったそうです。彼女は、そういった話の大半を大人になってから知ることとなりました。

クツカケさんの小説を通して、日系カナダ人の生活が当時どのようなものであったかを垣間見ることができます。それは苦難の日々でした。日本までの長く辛い船旅に続き、戦争で焼け野原となった一国を目の当たりにして、どれほど打ちひしがれたことでしょう。

様々な考えがあるのでしょうが、滅多に話題にされることのないこの時代から何かを引き出し、また洞察を深めることのできる小説だと思います。更に皆さんに興味を持っていただくため、ニューヨーク・タイムズの記事から引用しておきましょう。「誰も彼もがぶらりぶらり。過去の苦難と将来の不安の狭間で宙ぶらりん。本当の自分はどこなのか」

リン・クツカケさんのご厚意で、JSSに本書が数冊寄贈されました。メンバーの皆さんはどうぞお借りください。.

チバ ミシェルによる著者リン・クツカケ氏へのインタビュー (2018年1月)

ミシェル: 以前、日本人歴史学者・袖井林二郎氏の著書、『拝啓 マッカーサー元帥様』から着想を得たとおっしゃっていましたね。リンさんのご著書は、アメリカ占領下における戦後東京の生活を背景にしていますが、公園、銀座のバー、元帥が司令ビルへと向かう車道など、登場する場所の描写は日本でのご滞在時に基づくものですか? ところで、そういった東京エリアの描写なのですが、非常にリアリティーがあるので私の心はトロントから離れ、自分もその場所に行ってみたいという気にさせられましたね。

リン:はい、滞在した時の経験がベースです。かなり昔(1970年代後半)になりますが、英語を教えるために日本に行ったのが最初です。ですが、日本語はほとんど分からなかったので日米会話学院という語学学校に通って勉強を始めました。東京のど真ん中の四谷というところです。渡航前は、日本語はとてもではないですが学習することはほとんど不可能なように思っていたのですが、日本語環境の中に身を置くことできたのはとても良かったと思っています。日本語にすっかり夢中になった私は、トロントに戻った後は大学院で日本文学の研究をしようと決めたんです。トロント大学の東アジア学部で修士号を取得してから再び日本に渡航しましたが、その時は文部省の奨学金をいただくことが出来ました。住まいはまた東京です。この小説に登場する場所は全て、私が今まで日本を訪ねた際、実際に行って着想を得た場所です。もちろんそれらの場所が戦後の占領下でどのような様子だったのかを私は知らないので、昔の写真を見て調べる作業に時間を費やしました。そうしてから私は日本に行ったのですが、当時の建物は、今ほどはキラキラで現代的という訳ではありませんでした。

例えば、今日見かけるよりもずっと沢山の木造アパートが狭い小道にひしめいていましたし、東京の郊外では近代的な水道設備が整っていない地域も多くありました。私は、イマジネーションを膨らませ、そうした過去の記憶に重ね合わせてみたりもしました。上野公園、日比谷公園、アメ横、神田、銀座、こういった場所には全て行きましたね。どこも魅惑的な場所です。今まで、何度も日本に行く機会に恵まれてきましたが、本作の執筆中は、作品に含めたかった場所のほとんどに行くことができました。

例えば、GHQビルとして使用されていた第一生命ビルを見に行きましたが、昔から同じ場所に建っています。ビルの上部に高層オフィスタワーが増築されてはいますが、元の建物の部分(当時のビルはわずか5、6階建て)は昔の写真で見たままのものでした。ビル周辺の地理感覚が分かるようになると、当時はとても圧倒的なものだったのだろうと思い至ります。周辺地域は爆撃で壊滅状態だったのですからなおさらです。更に、GHQと皇居がどれほど近かったのか、そして、GHQ前の広い道路、もし人っ子一人の通行人もいなければ、どんな風に見えたであろうか、そういった雰囲気もつかむことができました。本書を出版した後、日本を再度訪れ、「恋文横丁」の跡地とされる場所を探そうとしてみたんです。実はそこは有名な場所で、渋谷にあることが分かりました。現在その跡地には109という名のデパートが立っています。

ミシェル:本作に関する書評の多くが、日系カナダ人・日系アメリカ人が日本をどう体験したのかという内容に焦点を置いて書かれています。それとは別に、私自身は、日本的とも言える細かな文化的規範に関する描写にも興味をひかれました。掛け持ちで代筆業を営み、大病を患ってしまう教師のコンドウ先生、赤ん坊が何人も亡くなってしまったという状況に対する警察の対応、女生徒が行方不明になった時に取った校長の対処法、そういった数々のエピソードです。日系人としてのバックグラウンドをお持ちであることは、そういった文化規範を描写の中に取り入れ、登場人物の中に埋め込むことに役立ったとお考えでしょうか。

リン: 登場人物がいかにも日本人らしく描かれていると感じていただいたのでしたら嬉しいです。実は、コンドウ先生は、本作の登場人物の中でも、お気に入りの一人なんです。そうですね、日本と日本文学のことを勉強したことは役立ったと思っています。でなければ、日本を舞台にした小説を書こうなどとは思わなかったことでしょう。登場人物は、日本という設定の中で関係していくわけですから、文化規範を理解することはとても重要なことだと思っています。

日本文化には、感情の抑制、面目の保持、本音と建前の使い分けなど、人々がどのように自己表現するかに関して、独自の様式があります。私は、そういった抑制というものに関心があるんです。何故なら、それは、表面に見えるものの背後には実は、複雑な感情がひしめいているということを意味しているからで、これは、もの書き一般にとっては、興味ある事象と言えるのではないでしょうか。但し、私はあくまで、できるだけ現実味のある登場人物を作り出そうと努めました。読者の皆さんが、まるで実在の人物が登場しているかのように感じてもらえるのであれば、それに勝ることはありません。

ミシェル:本書は日本語に訳されていますか? あるいは、そういった予定はあるでしょうか?

リン:日本語には訳されていません。いつか翻訳が実現してほしいですし、そうなれば素晴らしいことだと思います。ただ、カナダに住む日本人の友人たちは、この作品を英語のままで読んでも読みやすかったと言ってくれています。是非、多くの皆さんに読んでいただけることを願っています。

リン・クツカケさんにはインタビューにご協力いただき、また、JSSにご著書を寄贈したいただいたことにも深く感謝いたします。JSSメンバーの皆さんは、どうぞお借りください。クツカケさんの次回作が持ちきれませんね!

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