シニアの新生活 —ダウンサイジングと断捨離—

クリプシャム 晴江Downsizing - Harue Clipsham
三十年近く住み慣れたトロント郊外の2階建4寝室の一軒家から、ダウンタウンにある2寝室のコンドに引っ越して一年が経ちました。
夫は退職して早7年、持病のため階段の昇り降りが多少危なげになり、私は私で大きな庭を持て余して家の管理と維持は人を雇うことが多くなるなど、我が家もシニアの家に良くある風景に満ち満ちていました。二人の娘は学生時代から家を出ていましたので、長い間ほとんど使わない部屋もありました。
より安全で身軽な生活をしようとずっと考えてはいたものの、長年実行に移すまでには至っていませんでした。もちろんシニアでも住み慣れた家に一生住み続ける人もいれば、小さめの家に住み変える人、賃貸アパートに移る人、終の棲家としてナーシングホームに入る人など様々です。それぞれ自分にふさわしい、最近の言葉で言えばスマートサイジング、ライトサイジングをしていることが見てとれます。昨今のシニアの選択肢は様々です。
ただ、何事もきっかけや潮時というものがあります。私たちのダウンサイズのきっかけになったのは、おととし8月の長女の結婚でした。娘夫婦は式はハワイのマウイ島であげましたが、披露宴は我が家の裏庭でささやかながら心温まる内輪でのパーティーをする事にしたのです。ガーデニングが趣味であった私が長年手をかけて来た庭。この庭を白いウエデイングドレスを着た娘が歩くとは何という最高の贈り物でしょう。真夏の日差しの中で、幸せいっぱいの娘や家族に囲まれ、私は最高の思い出を潮時としていよいよ家を売ることを提案し、70代半ばになった夫も重い腰を上げました。やっと精神的にも区切りがついたのです。
引越しに際して、それぞれ自分たちの理想とするリストを数え上げればきりがない事でしょう。私たちがダウンサイジングに入る前に話し合ったことは、― まだ元気なうちに自分たちの手で家を片づけたい。次も緑の多い地域に住みたい。コンサートや映画は地下鉄で行きたい。二人の娘の家、JCCCなどに近い所に移りたい。夫の友人たちとは遠くなっても、今までのようにこまめにお付き合いを続けたい。― などの希望でした。
Downsizing1幸いなことに、これらの希望を満たせるようなコンドに引っ越す事ができました。前より緑にあふれた住宅街は静かで落ち着きます。縁は異なもの、夫が独身時代に住んだボーディングハウスはこの近くにありました。私たちはバリアフリーを含め、前の家以上のリノベーションをしてからこのコンドに引っ越しました。ブリッジファイナンスでしたが、自分らしい住まいにしたことで新生活がよりフレッシュで希望あるものになりました。これは気分的にも非常に大切な要素であったと言えます。
大変古いコンドですから暖房をすると奇妙な音がしたり、こまかいルールには驚きましたが、24時間体制のコンシアージは便利で頼りになります。夫はライブラリーやジムやプールを楽しんでいますが、それでも、家のほうが好きだと言います。まだまだadjusting中と言うのです。どうも、狭いからだけではないようです。思うに、家ではベースメントにあったものが今はどこにあるのか、処分してしまったのかわからなくなり、30年間置きっぱなしで一度も使わなかったのですが、家も含めて一種の喪失感があるのではないかと思います。そのうち、二人で徹底的に探そうと思っています。
ただ、最近はただの片付けと言うより、そこから派生して今までの物に対する考え方、強いては自分のライフスタイルや生きる姿勢にもつながるものがあるように感じ始めました。
ダウンサイジングを思い立ってから、コンドに引っ越すまで丁度10か月。泥縄式の片づけは、段々時間に追われて必死でした。まず、大体でもコンドに持っていくものを決めました。あとは、高価なものでも品質が良くても頂き物でも、長い間使わなかった物、コンドに入りきれない物、コンドに入っても大きすぎる物は、捨てたり、寄付したり、子供や友人やご近所にあげたりして処分しました。
手数がかかるので売ることはしませんでした。コンドに来てからも、特に私の衣服類は、要る、要らないと選別し、どう処分するのか決断を続けています。孫が来た時に使う敷物などもクロゼットに入らず、まだまだ「断捨離」が必要です。
「断捨離」とは日本のやましたひでこさんが商標登録した造語です。ご存知の方も多いと思いますが、ヨガの考え方を応用したモノの片づけ法で、ひいては自分の生き方を考える言葉です。我が家の場合、引っ越し前後は不要なモノ、使っていないモノを捨てる(寄付する)ことに専念しましたが、これからは、不要なモノが入ってくるのを断つこと、モノへの執着から離れることをもっと考えて、モノではなく、心や生活を豊かにしたいものです。買い物キチガイの異名を取る私ですから、考えねば。Downsizing 2
我が家の引っ越しの時は知らなかったのですが、昨年あたりから世界中に本が広がり、今年の始めにはトロントの新聞にも出ていた、こんまりこと近藤麻理恵さんの片づけ法もユニークです。「人生がときめく片づけの魔法」という本は日本語版も英語版も相当な売れ行きで、こんまりさんは、2014年、NYタイムスの世界に影響を与えた100人に文化の部門で選ばれたそうです。片づけは一気に、部屋や場所ごとではなくカテゴリーごとに、短期に、完璧に。基本的に『ときめく』物だけを残す。自分だけの片づけを終わらせる。主人がさっぱり片づけないなどと言っている人は、自分の片づけが終わっていない。(耳が痛いです)片づけることにより、自分はどのような暮らしをしたいか。理想の暮らしはどういうものか考える。モノに感謝して捨てる。と言う、こんまりさんの片づけ法にも教えられることがあります。これからは、「断捨離」や『ときめき』を併せてシンプルライフを考えたいと思います。
ハードだった日々を乗り切った夫をみて、「ダディは去年より元気そう」と娘たちは喜んでいます。私たちは、ゲストや、乳母車の孫と一緒に近くのトレイルを歩くことも度々です。朝食後のコーヒータイムは、快適なバルコニーに夫と私、18歳の猫まで集まって爽やかな夏を楽しんでいます。毎日お互いの予定を確認し、できるだけゆったりした日々を過ごすようにしています。家の管理に時間を取られない、新しい生活に切り替えて良かったと私は思っています。
ダウンサイジング にあたっての必要な心構えを、以下に記します。:

  • 最近の不動産の売買情報をつかんでおく。トロントの主要な新聞はインターネットで読める。
  • 家は安全に留意した修理をしておき、片づけ(断捨離)に心掛けておく。
  • 不要の大型家具は早めに、捨てるか、売るか、寄付するかを決める。寄付したものは、Taxクレームに使える運搬費用のレシートをくれる所がある。(我が家は引っ越し当日のトラックで運んで、いくつかの家具をサルベーションアーミーに寄付をしたが、トラックが渋滞に巻き込まれその日は引っ越しができなくなり、引っ越しが2日に亘ってしまい、予定外の出費になった)
  • 普通は家の中をすっかり空にして引き渡す。家の買い手が欲しい物があれば、口約束ではなく、家に残していける物をリストアップして渡し、お互いに要、不要を確認する。