JSSカウンセラーより: [時は止まらない・高齢化社会」

JSSカウンセラーより [時は止まらない・高齢化社会」

 公家孝典カウンセラー記

JSS Counsellor Takanori Kuge and image of an hourglass
日本やカナダを含む多くの先進諸国において、人口の高齢化が問題になっていますが、GTAの日系コミュニティーも例外ではないようです。この人口の高齢化は、JSSのシニアのクライアント数の増加や、持ち込まれる相談内容にも色濃く反映されるようになりました。相談内容は、高齢化に伴う身体的な疾患および認知症やその他の精神疾患などクリニカルな分野の相談や、また財産の管理および遺書の作成などクリニカルでない分野の相談など多岐にわたります。
認知症の主な症状は、記憶や認知に関する機能が低下することですが、その様態や進行速度はさまざまです。これまでも、JSSはGTAの認知症を抱える“日本語を話す高齢者”やその家族に様々なサポートを提供してきましたが、そのケース数の増加に伴いモミジ・ヘルスケア・ソサイエティーと協力して高齢者向けのプログラムやセミナー等を行う機会も増えてきました。
今までにJSSが関わった認知症を患っているシニアのクライアントのケースを見てみると、それまで英語でのコミュニケーションに何の問題もなかった方でも、認知症が進行するにつれ、英語による会話力が著しく衰退し、母国語である日本語に回帰する方がたくさんいらっしゃることに気づきます。このようなクライアントの配偶者および家族が日本語を話さないケースも多々あり、そのようなケースにおいては、クライアントの記憶や認知力の低下に加えて“言語の壁”が、家族がそのクライアントをケア・サポートしていく際の極めて大きな障害になることは想像に難くないですよね。
残念ながら現在の医学ではこの病気を完全に「治癒」することはできないことがあります。つまり、コミュニティーの高齢化に伴い、認知症を抱える高齢者の数は確実に増加していくのです。
老人病専門医(Geriatric Doctor)の話によると、認知症の予防と遅延に最も効果的なのは“適度なエクササイズ”と“他者との交流(ソーシャルアクティビティー)”だそうです。トロントの冬は寒くて長く、エクササイズにもソーシャルアクティビティーにもあまり向かないですが、だからこそ、努めて励んでいきたいですよね。
日系コミュニティーの人口の高齢化に係り、もう一つ気になるエリアが、“「パワー・オブ・アトーニー(Power of Attorney = POA)=委任権・代理権」の任命”と“「ウィル(Will)=遺言」の作成”に係るものです。POAにしてもWillにしても、どちらも(特にPOAは、)日本においては一般的でなくなじみの薄いものなので、日系コミュニティーのなかには(人生の半分以上をカナダで過ごしてきている方々でさえも)、POAおよびWillの準備をされておられない方がたくさんいらっしゃいます。もちろんこれらは、高齢者の方だけでなく、すべての成人がきちんと準備しておくに越したことがないものですが、これらが必要な状況になる“確率”で考えると、やはり高齢な方ほど準備しておいたほうがいいものであるといえます。
Will=遺言に関しては、日本において、一般人の実生活にはあまり関係のないものであっても、テレビドラマや推理小説などにはよく登場するものなので説明は必要ないかと思いますが、POA=委任権・代理権についてはよく知らない方もいるかと思うので簡単な説明をさせていただきます。
オンタリオの法務省の説明(参照:http://www.attorneygeneral.jus.gov.on.ca/english/family/pgt/livingwillqa.pdf)によると、POAには① Continuing Power of Attorney for Property (CPOA) ② Non-continuing Power of Attorney for Property ③ Power of Attorney for Personal Care (POAPC)の3種類があり、私が上で挙げている“POA”は③のPower of Attorney for Personal Careを指すものです。これは、平たく言えば、ある人が事故や病気で脳の機能などがダメージを受け、認知レベルが低下し、正常な思考・判断ができなくなったときに、その“ある人”に代わって“ある人”に係る財政的な事項や医療に関する事項などに関する意思決定を任せられる人を指します。
ある人が亡くなったり、事故や病気で意識不明の生きてはいても正常な思考ができない状況になった時に、その“ある人”にきちんとした婚姻関係にある配偶者がいる場合には、WillまたはPOAが無くても、“ある人”に係る医療行為などに関する決定権や財産の相続権は、それほど問題なくその配偶者に移行するようです。しかし、配偶者がおらず、WillもPOAの任命もない場合には、いろいろと面倒なプロセスが必要になることも多いようです。
もちろん、自分がボケてしまったときのことや死んだときのことを考えるのは、あまり愉快なことではありませんし、POAやWillを準備するには多少の時間と労力とお金がかかるかもしれません。しかしながら、家族、及び弁護士やファイナンシャル・プランナーときちんと相談し、POAとWillを準備しておけば、それを準備していなかったときに起こりうる多大なる面倒や問題を避けることができます。
“備えあれば憂いなし”です。