JSS・モミジのセミナー:知っておきたい「もしも」のための委任状と遺言状
高野 千恵
2014年11月27日(木)午後1時より、シニアの方・シニアの介護をされる方を主なターゲットとして、上記セミナーが日系文化会館の一室を借り、モミジ・ヘルスケア・ソサエティとJSSの共同提供により開催されました。
もともと25名ほどの定員を考えていましたが、宣伝を始めてからすぐに25名埋まったため、なるべく多くの方々が限られたスペースに安全に入れるよう予定を変更し、机を取り払い、安全にセミナーにご参加いただける最大数として定員を50と変更しました。その後3週間ほどで定員に到達し、ウェイティングリストにも30名連なるなど、早くからこのトピックへのコミュニティの皆さんの関心の高さが伺えました。
講師には日本とカナダ両方で法律の勉強をされ、オンタリオ州弁護士として活躍されている、Dermody法律事務所所属のスミス希美さん(J.D., LL.M)をお招きし、難解と思われがちな法律情報を日本語でポイントを抑えた解説をして頂きました。それぞれのトピックの締めにはQ&Aコーナーを設け、またセミナー終了後は、個人的な質問を直接スミス弁護士に相談出来る時間もとって頂くこと ができました。
さて、Power of Attorney(委任状)とは聞き慣れない言葉だと思いますが、自分で自分のことに関する意思決定ができなくなったときに、ご本人の代わりに決定を下す人を「ご本人が意思決定ができるうちに」任命する書類です。この書類を以て任命された人(々)もPower of Attorney (POA)と呼ばれます。財産管理の為の委任状(POA for Property, POAP)と、身の回りの世話の為の委任状(POA for Personal Care, POAPC)の二種類があり、同じ人でも別々の人でもよく、また複数の人を任命することができます。
POAが無いまま意思決定ができない状態になると、どうなるのでしょうか?
財産管理のほうは、(1)友人や親族などにより非公式に管理される、(2)誰かが裁判所に「財産管理後見人(Guardian of Property)」に任命されるよう申し立てる、または(3)法定後見制度(statutory guardianship)により、公的公権人・管財人事務所(Office of the Public Guardian and Trustee)が財産管理人として任命されるなどの可能性があります。
また、身の回りの世話に関しては、医療行為同意法(Health Care Consent Act)に基づいた他の代理意思決定者(substitute decision-makers: SDM)が一部の意思決定を行います。SDMとなれる人は、本人との関係によって、法律で定められた優先順位に基づいて任命されます。
財産・身の回りの世話ともに、そうやって急きょ代理人の代わりとなった人が、ご本人がもともと持っておられた希望通りに決断を下していってくれれば良いのですが、残念ながらそうなるとは限りません。例えば、パートナーやお子さんをPOAに任命される方が多いようですが、「もしも」のときが来たとき、罪悪感やショックや悲しみなど強い感情にかられて、決断をすることができない、またはご本人の意思とは違う選択をするということも起こります。ご自分が「この人ならこれを任せられる・任せたい」と思う方と自分の価値観や希望についてじっくり話し合い、自分の希望どおりに決定してくれる方を任命しましょう。また、第一指名のPOAが決断ができない状態になる可能性に備え、POAの書類の中で、代替代理人(substitute attorney)を指名することができます。
この自分の希望について考えまとめるプロセスをAdvance Care Planning (ACP)といいますが、ACPの基礎知識と、自分の希望をPOAPCへはもちろんのこと、大切な人たちや医療関係者に知っていてもらうための事前指示書(Advance Care Directive, ACD)の作成について学べるACPワークショップを6月に実施すべく現在企画中ですので、どうぞお楽しみに。
POAは意思決定ができるうちに設定する、生きている間に意思決定ができなくなったときのためのものですが、亡くなったあとのことは遺言状(Will)の範疇になります。どちらの書類も、本人が意思決定ができるうちに作成しなければなりません。
日本では遺言状がなくても法定相続の制度によって規定の割合が自動的に分配されるので、遺言状がないと困るという感覚は薄いかもしれません。カナダでも州の法律に沿った法定相続がありますが、遺言状がないと故人の遺産は一旦州政府に差し押さえられ、相続人は裁判所に法定相続を申し立て自分と故人との関係を証明したり、他の相続人を全て探し出す必要が出てきますので、相続に漕ぎ着けるまでにお金も時間もかかります。法定相続どおりの遺産相続でよくても、遺言状を作成しておくことで、余計な費用と手間を最小限にすることができます。
大切な人たちが大変な思いをしないように、またご自身の願いが形になるように、POAやWillを早い段階で作成しておくことをおすすめします。このセミナーは今後も定期的に実施していく予定で、今年も夏以降の開催を考えております。
スミス弁護士の日加タイムスの連載「相続法の基礎知識」には、委任状と遺言状について簡潔に, とても分かり易く説明されていますので、セミナーを逃した方もぜひ一度お読み下さい。
http://www.e-nikka.ca/Contents/thisweekBK2.php
また、セミナーにて配布しましたCommunity Legal Education Ontario (CLEO) 発行のPOAについて説明している冊子は、以下のリンクからダウンロードいただけます。
日本語版(JSS訳)
財産管理の為の委任状(POA for Property, POAP)
身の回りの世話の為の委任状(POA for Personal Care, POAPC)
英語版(CLEO発行)
Power of Attorney for Property
Power of Attorney for Personal Care