コロナ禍・自粛期間中の遺言書・委任状の作成について
弁護士 スミス希美 (Pallett Valo LLP所属)
新型コロナウィルスの蔓延により、「もしも」の事態に備え、①遺言書(Will)、②財産管理のための継続委任状(Continuing Power of Attorney for Property)、③身体の世話のための委任状(Power of Attorney for Personal Care)を用意しておくことがますます重要になっています。一方で、誰もが外出を自粛する中、2名の立会人の面前でこれらの文書に署名することは実際には難しいかもしれません。これを受け、オンタリオ州では、緊急事態宣言の実施中は、ビデオ会議を利用した遺言書と委任状の署名・立会いを可能になりました。
ビデオ会議を利用した立ち会い・署名が可能に
本来、有効な遺言書と委任状を作るには、本人が署名する際に2名の立会人がその場に立ち会い、全員が同じ文書に署名しなければなりません。しかし、多くの場合、家族は立会人になれないため、コロナ禍での自宅待機中は、立会人の手配は不可能かもしれません。
そこで、オンタリオ州政府は、2020年4月7日付で、遺言書と委任状の署名に関する法改正を行い、ZOOMや Skypeなどのビデオ会議を利用した遺言書と委任状の署名・立会いが可能になりました。ただし、ビデオ会議による遺言書・委任状の署名・立ち合いは、緊急事態宣言の実施期間中に限り、立会人のうち1名が、オンタリオ州法律家協会(Law Society of Ontario)から資格を授与された弁護士、または、一定のパラリーガルであることが条件となります。なお、本人・立会人の署名は肉筆に限り、書類は原本のみが有効であり、デジタル署名やデジタルコピーは無効です。
自作の遺言書・委任状について
セルフキットの利用:弁護士に頼らず遺言書・委任状を自分で作成する場合、インターネットや書店等で手に入る、遺言書や委任状のセルフキットが役立つかもしれません。セルフキットの遺言書・委任状は、立会人になれない人の条件を熟読し、立会人2名を用意し、庭先や軒先などの「密」を避けた環境で署名・立ち会いを行いましょう。また、立会人の連絡先を控えておくとよいでしょう。これは、遺言書をプロベイトと呼ばれる裁判所での手続きの際に、遺言書の署名に立ち会った事実を証明する立会人の宣誓供述書が必要になるためです。
自筆遺言書:オンタリオ州では、自筆遺言書の作成も認められており、コロナ禍では、立会人が不要なのが利点です。自筆遺言書が有効になるためには、遺言書の一字一句の全てが本人の自筆で、遺言書の最後に本人の署名が必要です。自筆遺言書を作成する場合は、相続人だけではなく、遺言執行人の任命、作成日も明記するとよいでしょう。ちなみに、現在のところ、自筆の委任状は有効ではありません。
自作の場合はリスクを理解して
自筆の遺言書や、セルフキットを利用した遺言書や委任状は、一定の方式・執行のための必要条件を満たしていれば、法的には有効です。しかし、セルフキットや自筆の遺言書は、文書の有効性や内容が争われることが多く、ご本人の希望が実現しないこともあります。専門家に頼らず自分でこれらの書類を作成する場合は、リスクを理解し、自己責任で取り組んでください。
[おことわり]
本記事は、2020年5月13日時点でのオンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。