ドメスティック・バイオレンス(DV)の子ども達へ与える影響
三船純子(JSSカウンセラー)
前回の記事に引続き、今回はDVの子どもへの影響について書かせていただきます。
DVの被害者が母親である場合、その女性がそのDVという経験により心身ともに大きな影響を受け、トラウマを経験するということを前回は書かせていただきました。すべての子ども 達が必要としている安全性、安定性、一貫性に悪影響があることにより、DVがある家庭で育っている子ども 達も、大きな影響を受けているのです。親が虐待されるのを目撃したり、家庭での暴力を認識することは、子どもの健全な発達に欠かせない子どもの安定と安心が危険にさらされることになります。子どもは、親達が一緒に住んでいない場合、例えば親の別居後や父親との面会時などにも、DVにさらされる可能性があります。
DVの子ども達への深刻な影響についてリストアップしてみました:
- カナダでは毎年85,000 〜 362,000の子ども達が家庭内での暴力を見聞きしていると推定され、日本ではその数は427,000 〜 875,000とされています。世界的にはその数は275,000,000にも上るとされています。
- 大人達は「子どもは気づいていない」と思いがちですが、子どもは自分の家でDVがあることがわかっているという研究結果がでています。また子どものいるDV被害者の60%が、自分の子どもはDVを目撃していると証言しています。
- DVの被害者が女性の場合、子どもはDVを目撃する傾向にあるともされています
- 子どもの年齢が高い家庭よりも、子どもの年齢が低い家庭でDVが起こりやすいとされています。
- DVを目撃した子どもは、精神疾患を発症する率が、DVのない家庭の子どもに比べて2倍になるとされています。
- DVを目撃した子どもは、成長して暴力を奮う加害者にも、奮われる被害者にもなる傾向があるとされ、子どもの頃に母親が暴力を奮われていたという男性の妻(パートナー)がDVの被害者となる傾向が高くなっているとされています。またDVにさらされた子どもは、自分自身の子どもの子育て方法で悩む傾向が高いとされています。
- DVを目撃した子供は、子供自身も身体的暴力を受ける危険があるとされています。
またある研究報告によると、DVにさらされた子どもは、虐待を受けた子供が受けるのとよく似た影響を受けるとされています。RCMP(カナダ警察省)は、子どもがDVを目撃することは、児童虐待を直接受けることと同様の害を子どもに及ぼすとしています。その為、子どもがDVにさらされることは、児童虐待及び育児放棄とみなされています。日本でも、DV家庭において両親のDVを目撃させることは、子供に対する虐待であると定義されています(2004年改定児童虐待防止法)
DVを目撃するすべての子どもが直接的な身体的虐待を受けるわけではありませんが、長期的な行動障害や心理的影響があるといわれています。DVにさらされることは、児童及び青少年の心理的、社会的、情緒的、そして行動的な問題、または脳発達や学習能力にも悪影響がでるとされる研究結果がでています。
下記の表は母親が虐待されるのを目撃した子どもへの長期的影響を示しています:
乳幼児 | 学童前の幼児 | 5–12 歳 | 12–18 歳 |
食事と睡眠の乱れ | 落ち着きがない | 自尊心の低下 | 暴力を奮う又は奮われる |
大きな音を怖がる | おびえる・怖がる | 心的外傷後ストレス障害(PTSD) | 自殺企画 |
発達の遅れ | 分離不安 | 自傷行為 | 女性蔑視 |
激しく泣く | 頻繁な体調不安や病気 | いじめ行為 | いじめ行為 |
発育不良などの身体的徴候 | 叩く、蹴る | 鬱状態 | 友人関係を築きにくい・築けない |
まとわりつくこと | 完璧症 | 家出 | |
怒り・攻撃性 | 学校での問題行動 | 責任感を過度に持つ | |
動物への虐待 | 不適切な性行動 | 不自然な媚び諂い | |
後退的言動 | アルコール・薬物依存 | 不安症と緊張 | |
破壊行為 |
抜粋資料:A handbook for health and social service providers and educators on children exposed to woman abuse/family violence, Ottawa: Health Canada, 1999.
子どもをDVの有害な影響から守るためには、またDVにさらされた子ども達にはどのようなサポートを提供するべきなのでしょうか? 子どもには安全で安心できる家庭環境が必要であり、また自分の母親も危険から守られていると感じられる環境が必要です。子どもの健全な発達に欠かすことのできない、学校へ行ったり、種々の活動に参加したりという通常的で習慣的な日課がある生活をしているという安心感も必要です。家庭で暴力が奮われている場合には、子どもは安全で協力的な環境へとすみやかに移されるべきです。子どもの家族の近くに親戚などの身寄りがいなかったり、協力的なサポートを提供できる友人、知人がいない場合などは、ファミリー・シェルターなどへの移動もあるでしょう。また子どもの母親が適切な保護とサポートを受けることは、子どもにとってもとても大切なことです。言い換えれば、母親が適切な助けを求めることは、母親自身のためだけではなく、子どものためにも重要なことなのです。
DVにさらされた子どもが暴力は悪いことであると理解している場合には、暴力を奮う加害者や奮われる被害者になることはありません。DVにさらされた子どもの中には、親の暴力を止めようとしたり、母親を暴力から積極的に守ろうとしたり、家の外へ助けを求めたりする子どももいます。信頼できる関係にある大人の存在が子どもの近くにある場合には、子供は自分は一人ではないと分かっている為、家での暴力への適応力が高いと言われています。子どもたちは、暴力はよくないことであるということを学び、対立や衝突があった際には建設的な価値観と態度に基づいた、暴力を使わない方法を学んでいく必要があります。また暴力を奮ったり奮われたりするのではない模範となる大人に育てられることや、攻撃的言動や暴力をなくすためのプログラムなどに参加し、健全な喧嘩や対立の解決ができるようにしていくことも大切です。
下記のビデオはDVにさらされる子供への影響の大切な特質を捉えていると思います:
Video: “Monsters in the Closet – Domestic Violence from a Child’s View”
https://www.youtube.com/watch?v=LbRba9XHKKw
DVにさらされているかもしれないという子供に助けの手を差し伸べる場合には、その子どもに助けをもとめることを促し、家の中が危険な状態である場合には、家の外の安全な場所へ逃げるように、そして近所の人でも先生でもソーシャルワーカーでも、誰か信頼できる人に相談するように促してあげてください。DVのある関係から離れる決断をすることは、被害者の女性にとって決してたやすいことではありません。それでも、母親が暴力のある関係から離れ、前に進むことを決心することは、子どもにとって健全な環境へ変わることで、子どもの心身に傷を残さないようにしていくことにつながっていくのです。
参考情報や資料:
Children’s Aid Society (CAS) agencies are available to take your call 24 hours a day, 7 days a week.
Children’s Aid Society (CAS) Agencies in Toronto:
Catholic Children’s Aid Society of Toronto: 416-395-1500
Children’s Aid Society of Toronto: 416-924-4640
Jewish Family and Child: 416-638-7800
Native Child and Family Services of Toronto: 416-969-8510
To find other CAS agencies in other regions:
http://www.oacas.org/childwelfare/locate.htm
Police: 911
(Non-emergency 416-808-2222)
Assaulted Women’s Helpline: 416-863-0511 (Toll Free: 1-866-863-0511)
Mobile: #SAFE(#7233)
http://www.awhl.org/
Support services offered 24 hours a day, 7 days a week, to provide crisis counseling, referrals to legal services and shelters, and safety planning.
Community Information Toronto: 211
http://www.211toronto.ca/
Social services information in Toronto
The 519 Anti-Violence Program: 416-392-6874
www.the519.org
Support services to DV survivors/victims of lesbian, gay , bisexual, trans-gender & sexual, inter-sexual.
Barbra Schlifer Commemorative Clinic: 416-329-9149
http://schliferclinic.com/
Legal support and counseling to DV survivors/victims
Japanese Social Service : 416-385-9200
www.jss.ca
Project Blue Sky:
https://jss.ca/bluesky/japanese/index.html
参考文献:
森田ゆり「ドメスティック・バイオレンス家庭に育つ子どもたち – インパクトとリカバリー」国立女性教育会館研究ジャーナル, vol. 14. March, 2010
徳永恭子「ドメスティック・バイオレンスの被害者としての子ども達」親と子と教職員の教育相談室・発行『教育相談室だより NO.69』2~4頁、2010 年9月1日発行
http:www/Canadianwomenorrg/facts-about-violence#children
United Nations Secretary-General Study on Violence against Children (2006)
Statistics Canada (2012), Family violence in Canada:
“Children’s exposure to intimate partner violence: impacts and interventions,” CN Wathen, HL MacMilan. Paediatr, Child Health, 2013; 18(8):419-422.
“Children’s Exposure to Intimate partner violence,” HL MacMillan, CN Wathen. Child Adolescent Psychiatric Clinic, N Am 23, 2014:N Am 23, 295-308)
“Behind Closed Doors, The impact of Domestic Violence on Children,” Stop Violence in the Home, The body Shop International and UNICEF.