現代社会によみがえった腱引き療法(筋整流法)
腱引き療法とは:歴史的背景
宮崎景子(みやざきけいこ)
日 本で古くから武士の鍛錬として行なわれてきた武術は、戦いのための技として、歴史と共にその技術の粋を極めて行きました。その高度に磨かれた相手を倒し殺 す技は「殺法」と呼ばれました。また、「殺法」を使って人を倒そうとした時、ある時は人を生かす技にもなり得ることが、鍛錬や戦いの場から発見され、その 技は「活法」と呼ばれるようになりました。つまり、「殺法」と「活法」は表裏一体の技だったのです。
武 術に伝わる療法は、命がけの稽古で起こる骨折脱臼や腱・筋損傷に対処してきた先人の知恵と経験の結晶です。柔術の古式医療術において、筋の絡みを正しく建 て直す「スジ抜き技法」と呼ばれる技は、「腱引き技法」とルーツを同じくするものと考えられています。腱や筋肉は、生活習慣や運動、外からの衝撃によっ て、収まっていた位置から外れたり捻じれたりして、痛みの原因となります。「腱引き」ではその腱や筋肉を正しい位置に戻し、筋肉を整序し、筋肉を揉まずに 腱を指先で弾いて痛みを取ります。「活法」を応用・発展させ活用した柔術医術法で、優れた手技療法である「腱引き」は、秘技として流派の継承者にのみ口伝 で伝えられました。が、明治元年(1868)の西洋医学の採用を機に、「腱引き」を含む伝統医療は、次第に消滅していきます。
腱引きがこの世から消える
「腱引き療法」は、その350年 の歴史的背景が示すように、柔術医療法として臨床を重ねた結果です。その効果は、治療に来た時にはひどいぎっくり腰だったにも関わらず、治療の帰りには何 事もなかったかのように歩いて帰ることができる程のすばらしい技術であり、しかも一回で直してしまうという効果の高い治療法でした。それにも関わらず、 「腱引き技法」が現代まで残っていないのは不思議なことです。その理由として考えられることは、西洋医学が世の主要な治療法手段となったこと以外に、2つ あります。1つは、秘技として各流派が口外せず口伝により継承者のみに伝え、その継承者がいなくなってしまったこと、もう1つは何とか生き残った腱引きの 達人の言葉の通り、腱引き技法が1回の治療で効果を上げることが出来る技術であったため、「直りすぎてしまって、回りに患者がいなくなってしまった」とい うことなのです。つまりほとんどのケースで継続的に治療を受ける必要が無くなり、治療ビジネスとして成り立たなかったためです。武者修行などで全国を行脚 し、軒を借りたお礼に施術を行って、時にはその技も伝授したため、「腱引き」という言葉だけは、「肩甲骨の裏側の腱を引く技の名」として全国的に知れ渡っ ていますが、それも時と共に社会から消え去ろうとしています。
腱引きとの出会い・古式腱引きの継承
日本写真家協会に所属する写真家であり、コンピュータ関係の会社の代表をしている小口昭宜氏が全く畑違いの腱引きに出会ったきっかけは、29歳の頃になった二週間起き上がることもできなかったぎっくり腰でした。
整 形外科はもちろん、整体やハリに通うも、一向に効果がなく、這いずるような生活をしながら二週間が経った頃、「医者じゃなくて素人の人だけど、ひょっとし たら直るかも知れない。紹介するから、行ってみますか」と、友人の担当医に勧められます。医者が手に負えないという時に紹介をしようという人とは、と興味 を持ちながらも、半信半疑のまま、紹介された看板もない普通の民家の戸を叩きます。這うように部屋に入って、横になり、うつぶせになると、腰と背中を触 り、仰向けにして足をいじり、「ちょっと、痛いぞ。いいか」と聞かれた次の瞬間、電流を流したような痛みと共に今までの痛みが消えてしまいます。「膝を曲 げてみて」と言われ、「痛くない」と答えると、「当たり前だよ、直したんだから。今日はゆっくり風呂に入れよ」と治療も終了してしまいます。「なんです か、これ。整体じゃないですよね」との問いかけに、達人は「腱引きだよ」と答え、これが、小口昭宜氏と腱引きとの最初の出会いとなります。
素 晴らしい治療効果に驚き、本気で腱引きを身につけようと、小口昭宜氏は弟子入りし、治療院に通い詰め、その後師匠から伝承を受けた「腱引き」と口伝として 残ってきた「古式腱引き」の技を、理論的に整理して「筋整流法」と名付け、現代に甦らせます。筋整流法は、筋肉維持を基本に血管・リンパ管などの流れを重 要視し、解剖学等の医学的根拠に照らし合わせて筋肉・体の仕組みに合った施術法として、現代の世で活用できるものに発展させた腱引き療法です。学術的な検 証も医師や徳島大学大学院により研究が進められており、モンゴル大学の伝承医学に腱引き療法が加えられるなど、歴史ある日本の腱引き療法は、薬を使わず手 技のみで改善できる療法として、世界の多くの人の様々な痛みや故障の改善に寄与できる療法として、スターティング・ポイントに立とうとしています。腱引き 療法(筋整流法)で改善した事例は、「腰 痛、ギックリ腰・肩こり・肘・膝の屈伸不全・四十肩・五十肩、額関節の開放不全・股 関節開放不全・坐骨神経痛、顔面神経痛、肋間神経痛など神経痛・バネ指等の関節不全・生理不順・生理痛・全身倦怠・寝違え・むちうち症・自律神経失調症・ 拒食症・うつ病・便秘」などであり、精神的苦痛を含む多彩な痛みや症状に対して効果を上げています。腱引きの手技で改善し、その技のすごさを実感した人 が、次世代の治療法として継承していってくれることができるよう、アップデートされた「腱引き療法・筋整流法」は、誰もが理解できる理論的な施術法なので す。
(参照:筋整流法ホームページkenbiki.jp)