JSSのカウンセリングサービス ~メンタルヘルス編~

公家孝典

JSSが日英の両言語でカウンセリングとコミュニティープログラムを提供する社会福祉機関として活動を始めて以来、30年が経ちました。トロントだけでなくオンタリオ州全体で見ても、このようなサービスを提供している非営利慈善団体は設立当初から現在にいたるまでJSSしかありません。そのため、JSSに持ち込まれる相談内容は極めて多岐にわたります。さらに、例えば精神疾患のある相談者が病院の管理下に入ったあとも、治療のための通訳や相談者の日本にいる家族との連絡役としてJSSが継続的にケースに関わる場合など、日本語の通じる専門機関および専門家が非常に少ないために、英語しか通じない専門機関・専門家にケースをつないだ後も、JSSが引き続き言語や文化的な面でのサポートを提供することが多くあります。

また、1人の相談者が、種類の異なる複数の問題を抱えていらっしゃることもよくあります。例えば、「子育て」の問題で相談に来た相談者とカウンセリングセッションをしたところ、実は夫との関係に重篤な問題があったり、鬱などの精神的な問題を抱えていたりする場合です。実際、相談者の主訴がメンタルヘルスの問題ではないケースであっても、程度に差はありますが、相談者が抑うつ状態に陥っていることが多々あります。

糖尿病とか胃潰瘍が「病気」であるように、「鬱」も単に「憂うつである」とか「落ち込んでいる」というような気分的な状態を指すのではなく、脳内の化学物質のアンバランスが原因で起こるれっきとした「病気」です。臨床的な鬱病は深刻な状態になると希死念慮(自殺願望)を伴うことが多く、まさに命にかかわる病気です。そのような重い鬱病のケースがJSSに入ってきた場合、その相談者のファミリードクターか緊急を要する場合には病院の救急室につなぎ、精神科医の診察や治療が受けられるように手配します。残念ながら、カナダの医師免許を持ち治療にあたることが可能な精神科医で日本語の話せる方はGTAには一人もおられないようです。そのため、そのようなケースの大半は、JSSが病院での診療や退院後のプランを話し合うためのミーティングなどで通訳などのサポートを提供することもあります。また、ワーキングホリデーで滞在中の若者や短期留学生などで、OHIPの健康保険が無く、ファミリードクターもいない相談者も少なくなく、そのようなケース。

渡加される前は日本で仕事や学業に勤しんでおられた方でも、カナダにきて言葉や文化の壁にぶち当たり、新しい環境に適応できず絶望感、欲求不満、抑うつ状態に苦しみ相談にいらっしゃる方も多いです。抑うつの程度が比較的軽い相談者の場合、カウンセリングを通じて不安や悩みの直接的な原因を理解し、相談者自身がその問題に主体的に対応していけるようにサポートすることで鬱の状態を緩和できることもあります。例えば、幼稚園に通っている娘の担任の先生に誤解され無視されていると感じ悩んでいる母親からの相談があったとしましょう。カウンセリングを通じてその母親が少し自信を取り戻し、思い切って娘のクラスのアシスタントとしてボランティアをしてみるというプランが実行に移すことができ、ある程度満足いく結果となったとすれば、その母親の悩みの原因はほぼ完全に取り除かれることになります。あるいは、カウンセラーの助けを借りながら、その先生と直接コミュニケーションをとってみることができるだけで、誤解が解けたり、不満が解消されたりすることもあるでしょう。また、処々の理由で完全に自分に対する自信がなくなってしまっている相談者もカウンセリングにいらっしゃいます。このようなケースでは、特にカウンセリングの開始してからしばらくは相談者が自分に自信が持てない理由を分析し、自分に対する自信や肯定感を育てるのに、多くの時間とサポートを要することがありますが、それでもゆっくりとでも着実にそのような相談者が自信を取り戻し主体的に問題に取り組んでいかれるプロセスをお手伝いできることはカウンセラー冥利に尽きるものでもあります。

カウンセリングはJSSのもっとも主要なオペレーションの一つです。「カウンセリングのゴールは何ですか?」と問われたら、“カウンセリングによるサポートですべての相談者が最大限の元気と笑顔を取り戻すこと”答えたいですが、これはカウンセラーの私から見てもあまりに理想的な目標です。しかしながら、やはりこの理想に向かって精進していくことが大切なんだろうな~、とJSSのカウンセラーとしてきた15年を振り返ってみて改めて感じる今日この頃です。昨年からのコロナ禍で、難しい毎日が続きますが、可能な範囲で家族やご友人とつながり、可能な範囲で散歩やヨガなどのエクササイズや、趣味を楽しみながら、良好なメンタルヘルスの維持・向上に努めていきましょう。