カウンセラーのコーナー: (ハーグ条約編)
カウンセラーのコーナー:日本とカナダとハーグ条約
公家孝典(JSSカウンセラー)
近年、国際結婚の増加に伴い、その結婚関係が破綻し、いわゆる国際離婚にいたるケースも少なくない。夫婦の国籍の同異にかかわらず、簡単な離婚というものは存在しないのだろうが、国際離婚においてはそれぞれの国の離婚に関する法律・手続き・文化および慣習の違いがあるため、より問題が複雑化することは想像に難くない。
ここトロントにおいても国際結婚をしている日本人が国際離婚をするケースも少なくなく、JSSが扱う国際離婚のケースは毎年30~40ケースにのぼる。
この国際離婚から派生する重大な問題のひとつに「国際的な子の奪取(International Child Abduction)」と呼ばれる事象があり、これに対応するために“ハーグ条約”という多国間条約が1980年に制定され、2013年6月の時点で、批准国は90カ国(アメリカ、カナダ、オーストラリアおよび全EU加盟国を含む)に上り、ロシアが2011年の10月1日に加盟したため、G8諸国において未批准であるのは日本のみとなった。なお、アジア・アフリカ・中東の多くの国は、この条約に加盟していないが、隣国の韓国においても2013年3月よりこの条約が施行されており、批准国は増加している。
日本も、ハーグ条約未批准であることに対しての批判、及び条約批准を求める欧米諸国からのプレッシャーを受け、2013年の通常国会においてこの条約への加盟が承認され、なるべく早い段階での実施に向け、政省令の整備が進められてきた。2014年に入り、1月24日の閣議で日本政府はハーグ条約に正式に署名し、2014年4月1日より日本においてこの条約が発効することとなった。
ここでいう“ハーグ条約”の正式名称は『国際的な子の奪取の民事面に関する条約』で、国際結婚の破綻や国際離婚に際し、未成熟子(16歳位までの子)がいる場合に、一方の親が、法的な手続きにも拠らず、その未成熟子の監護権を有する(または共有する)もう一方の親の了承も無いままに自分の母国に連れ帰るなどの行為が「国際的な子の奪取」にあたる。
20世紀後半、社会の国際化が進むにつれ「国際的な子の奪取」にかかる事件は激増し、非常に重大な社会問題として認知されるようになり、ハーグ条約はこれを防止することを目的として制定された。このハーグ条約に拠れば、条約批准国間で不法な「国際的な子の奪取・連れ去り」が起きた場合には、「子どもが連れ去られた国」から「連れ去りが起こる前に子どもが居住していた国」への子どもの迅速な返還が義務付けられている。
カナダの国勢調査によると、カナダにおける日系人・日本人移民の国際結婚率は他のどの人種よりも圧倒的に高く、実に75%に近いそうである。ここ10年の統計を見てみると、カナダに移民する日本人の数は毎年1300~1400人で、そのうち約7割が女性であり、そのほとんどが結婚移民だそうだ。
日本人とカナダ人の国際結婚カップルの離婚率についてのきちんとした統計は無いので、正確な数字はわからないが、おそらくかなり高いはずである。国際離婚も、2人の間に子どもがいなければそれほどこじれることはないようだが、子どもがいる場合の国際離婚は、子どもの親権等に関する法律・文化・慣習の違いに加え、ハーグ条約との絡みもあるので非常に難しくなる。もちろん、『もし、離婚することになったら』ということを想定して、結婚する人はあまりいないだろう。しかし、カナダの高い離婚率を考えると、国際結婚に踏み切る前に、『結婚して、子どもができて、万が一離婚することになったら、自分はどうするのか?/どうなるのか?/どうしたいのか?』ということを考えておくこと、また、『そうなった場合に自分のパートナーはどうしたいのか?』を知っておくことが必要になってくるように思う。
日本において、この条約に係る返還申請等の担当窓口となる『中央当局』は外務大臣に定められ、この条約履行に関する実際の業務は外務省総合外交政策局に設置されたハーグ条約室を中心に外務省が担うことになった。この条約に関するより詳しい情報については外務省のウェブサイトを参照されたい。