JSS・モミジ共催の「アドバンス・ケア・プランニング」のワークショップ
ギャロウェイ容子
2015年6月27日、満席のトロント大学のイニスホールで「終(つい)の信託」と言う日本では2012年公開の映画を見ました。「Shall we dance?」「それでもボクはやってない」などの映画で知られる周防正行監督が奥さんで女優でもある主役の女医を演じた草刈民代さんを伴って、トロントでの映画公開に顔を出していました。長年喘息を患っていて、死期が近くなった患者役は役所広司が演じています。自分の価値観に見合った治療や介護の希望をどう伝えるのが良いのかや、伝えきれてない場合はどうなるのか、また尊厳死、安楽死のあり方なども描いた映画で、色々と自分等の余生というか、事故などにあった場合などの自分の今後や周りの人たちの葛藤についても考えさせられる映画でした。
昨今は平均寿命も延び、「健康寿命」の大切さについては日々新聞やテレビでも報じられていて、皆それぞれ食事に気を使ったり、散歩や運動に精を出すなど、健康に気をつけていられると思います。ただ、もしもの事があった時に、家族や友人など、自分の代わりに意思決定をする事になる人たちへ残すエンディングノート、リビング・ウィル、それから終末期医療、安楽死などこれらの言葉から想像することに、どう対応するのが良いのがわからないと言う方々は案外多いのではないでしょうか。
昨年2014年の11月27日には、モミジとJSSの共同提供で「知っておきたいもしものための委任状と遺言状」と題して、弁護士のスミス希美さんをお迎えして、セミナーが開催されました。「財産管理」や「身の回りの世話の為の」委任状や遺言状を作成して、自分で意思決定ができなくなったときに、代わりに決定を下さす人を任命しておく事の大切さが主なテーマでした。
それに続き、本年2015年7月24日(金)午後1時から3時半まで、モミジとJSSの共催で「もしもの時のその前にやっておきたい事」としてモミジ・ヘルスケア・ソサエティの星恵子氏、岡田由佳氏、JSSの高野千恵氏により開催されたワークショップでは、21名が参加されました。
今回は、例え委任状を作成しても、自分の価値観に見合った尊厳のある生き方や死に方、それらを自分なりに整理をして治療や介護の希望をきちんと伝える準備をしておかないと、本人の意思とは違う選択がされる可能性があるので、前もって「ケア事前指示書(Advance Care Directive)」を作成しておく必要あると言うのが、この日の「アドバンス・ケア・プランニング(ACP) 」のテーマでした。
ワークショップの最後には、グループに分かれて、ケース・スタディーの意見交換も行われました。
アドバンス・ケア・プランとは、死ぬときのものではなく、人生の次のステージのためのプランであり、大切な人たちや医療・ケア従事者を含めた話し合いをする事であり、将来にむけ治療やケアを計画するプロセスであるとの事です。
アドバンス・ケア・プラン(ACP)に含まれるものは、以下の通りです。
- Advance Care Directive (ACD)「ケア事前指示書」:介護や治療についてのあなたの希望が書かれたもの
- Power of Attorney for Personal Care (POA-PC)「身の回りの世話の為の委任状」:あなたに任命された、あなたの希望が聞き届けられるよう働きかける人(法律的に任命)
- 周囲へ自分の希望について伝え、話し合うこと
上記の「身の回りの世話の為の委任状」を持つ人は、代理意思決定者(SDM = Substitute Decision Maker)としての責任を理解している人で、あなたの事をよく知っていて、あなたが代理人として、信頼を寄せている人であることが大切です。
代理意思決定者(SDM)になれる人は、医療行為同意法(Health Care Consent Act)に 基づいて、本人との関係によって、法律で優先順位が決まっていて任命されるとの事です。
人生は何が起こるかわかりません。延命治療を望んでいなくても、その意思を伝えることも出来ない寝たきりの状態になった時、自分がいつその立場になっても大丈夫なように、事前に家族と話し合ったり、「自分の意志を表明するもの」を準備しておく事が大切だという事です。
医療に関する決められた権利を知る、よく発生する医療行為、例えば心肺蘇生(Resuscitation)、経管栄養補給(Tube Feeding)、 人工呼吸(Ventilation) などのベネフィットとリスクの両方を把握しておくと共に、「心肺蘇生拒否書(DNR Order)」「緩和ケア(Palliative Care)」などについても正確な情報をきちんと調べておいた方がいざという時の判断をする為に役に立ちます。
カナダでは、自殺は犯罪扱いからは外されたものの、安楽死の補助(Physician Assisted Dying)は違法でしたが、現在国が来年の合法化に向けて法律の整備を進めている段階です。回復不能な病気で終末期を迎える事になるとわかった時、延命治療をする・しないという選択をした場合、どう周りの人たちに伝えておけばよいのか、自分が治る見込みのない病におかされた時、苦しい思いをして生き長らえていたくない時、どうすればよいのか。また、家族や大切な人がそのような病気にかかったり、事故に会ったとき、本人の意志で「死」を選びたいと言われて、それをどう尊重できるのでしょうか。「延命治療を望まない」というのが何を意味するのか家族への説明が不十分であった場合、家族は対応や処置に困ります。
最期の時を任されるというのは大きな責任が伴います。本人も家族も、皆がなるべく後悔しない結果を出すために、元気なうちから考えておきたい問題だと思われます。遺言を残し、執行者を指定し、相続手続きがきちんと済み、どんな医療行為や治療を施して欲しいのかなどを明記して、残されるものが滞りなく手続きをふめるようにしておくこと、葬儀費用が引き出せず支払いに困ることもあるかもしれませんので、特に資産家ではなくても、遺言を残してもらうことも重要なようです。
<以下は、ご夫妻でワークショップに参加されたハリー川邊さんのコメントです。>
「家族や友人などに、あまり迷惑を掛けないで、あの世に旅だつという、ごくごく簡単なことに対して、思いも掛けなかった色々な準備が必要であり、また大変なことなのだと教えて頂きました。代理意志決定人(SDM)の優先順位だけをとっても9段階ものリストがありますし、Power of Attorneyの大切さとか、尊厳死の問題や医療に関する権利その他、Advance Care Planningについて素晴らしい勉強をさせて頂き、大いに感謝しております。」
追記
9月18日(金)午後1時より「知っておきたい『もしも』のための委任状と遺言状」をJSS主催で再度開催することが決定しました。こちらをご覧下さい。
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